
新卒から約40年、広告代理店一筋。執行役員まで務めた59歳に、年収1,250万円の給与事情から、部下とのトラブル、昔の広告業界まで聞きました。
■年齢
59
■性別
男性
■雇用形態
正社員
■会社名・屋号
非公開
■職種・役職
執行役員
■現在の状況
退職済
■おおよその年収
1250万円
■仕事・会社について
広告代理店に新卒で入社して、そのまま転職することなく勤めました。
執行役員になる前から各事業部のマネジメントを担当していて、大企業系のクライアントは徐々に下の世代へ引き継ぎ、自分自身は「この会社、この人たちと仕事をしたい」と思えるクライアントとの仕事を中心にしていました。
特にベンチャー企業の経営者や担当者の相談に乗ることは多かったですね。広告の相談から始まっても、話しているうちに新規事業や組織、人材の話になってしまうことも珍しくありませんでした。
本来の仕事は広告のプランニングですが、長くこの業界にいるといろいろな業界・会社・人と出会います。そうすると単純に「この媒体に広告を出しましょう」という提案だけではなく、「この人とこの人を会わせたら面白いんじゃないか」と人をつないだり、新規事業の壁打ち相手になったり、広告とは直接関係ない相談を受けたりすることも増えていきました。
忙しい時期は当然残業もあります。自分は一社しか経験していないので、給料が他社と比較して高かったのか安かったのかは正直よく分かりません。
一方で生活という意味ではかなり安定していました。結婚して子どもを育てることもできましたし、投資用マンションも3室ほど購入しました。会社員としての信用力があったので、住宅ローンや投資用ローンは比較的組みやすかったと思います。
親会社がしっかりしている会社だったので、クライアントもナショナル企業からベンチャー企業まで幅広く、仕事そのものがなくなる心配はほとんどありませんでした。
むしろ大変なのは、たくさんある案件をどう捌くか、人をどう動かすかという部分です。
社員数が多い会社なので、当然ですが仕事に意欲のある人とそうでない人の差もかなりあります。長く管理職をやっていると、クライアント対応より社内のトラブル処理をしている時間の方が長いんじゃないかと思う日もありました(笑)。
■この会社・業界への転職を考えている人へ
紙媒体中心の時代からデジタル媒体へ移行していく流れまで、広告業界の変化を40年近く見てきました。
広告の手法は大きく変わりましたが、「企業が商品やサービスを知ってもらいたい」という需要自体がなくなることはないので、広告という仕事そのものは今後も残ると思います。
一方で、自分がいた会社は歴史の長い会社なので、SNSマーケティングや新しいデジタル領域については、新興の会社に比べると少し弱い部分もあると思います。
TikTokやSNS広告、インフルエンサーマーケティングのような領域だけを徹底的にやりたいのであれば、最初からそこを得意としている会社に行った方が早いかもしれません。
ただ大企業からベンチャーまでさまざまな会社と仕事をしながら、企画、営業、制作、経営者との折衝などを経験できるという意味では、とても勉強になる業界だと思います。
広告代理店は、クライアントがいて初めて成立する商売です。
「自分が何をやりたいか」だけではなく、「この人、この会社のために何ができるか」を考えることが好きな人には、かなり相性のいい仕事だと思います。
さらに本人に聞いてみました
■ 一度も転職しようと思わなかったんですか?
全く考えなかったわけではないです。でも環境も悪くなかったですし、社内でもやる仕事や立場が少しずつ変わっていったので、同じ会社にいても同じことを40年近くやっていた感覚ではないんですよね。
転職しないことが正解だったとも思っていません。結果的には一社でいろいろな仕事を経験できたので、自分には合っていたと思います。
■年収1,250万円には満足していましたか?
不満はなかったですね。
もちろん世の中にはもっともらっている人もいますし、広告業界でも会社によって違うと思います。ただ家族を育てて、家も買って、投資もできたので、「給料が足りなくて生活できない」と思ったことはありませんでした。
逆に若い時からものすごくお金だけを追いかけるタイプでもなかったです。趣味優先です。
■執行役員になって一番変わったことは?
自分の仕事より、人の仕事を見る時間が増えたことです。
若い頃は自分で企画して、自分でクライアントに提案して、仕事が決まったら嬉しいという分かりやすさがありました。
役職が上がるほど、自分が成果を出すより「組織として成果を出す」が仕事になるので、面白さの種類は変わりました。
■役員になると、もう現場仕事はほとんどしないんですか?
そんなことはないです。
むしろ自分は現場が好きだったので、やりたいクライアントとは最後まで関わっていました。
役職が上がったからといって、ずっと会議室で数字だけ見ているのはあまり好きじゃなかったですね。会社からは怒られますが(笑)
■「人と人をつなぐ仕事」が増えたのは、いつ頃からですか?
40代くらいからですかね。
それまでは自分自身が仕事を取ることに必死でしたけど、ある程度人脈ができると「この人はあの人と会ったら面白いな」と思うようになるんですよ。
そこで仕事が生まれると、自分が広告を一本受注するより嬉しかったりします。
■逆に、一番大変だったのはクライアントより部下ですか?
そうかもしれません(笑)。
クライアントのトラブルは仕事なのである程度想定できますが、社内は本当にいろんなことが起きます。
本人同士では解決できない人間関係とか、「なんでそんなことになったの?」みたいな話とか。
役職が上がるにつれて、広告の知識より人間の扱い方を勉強した気がします(笑)。
■仕事ができる若手と、伸びない若手の違いは何でした?
まずレスポンスが早い人ですね。
頭がいいとか企画が上手いとかより、「分かりました、やってみます」とすぐ動ける人は伸びます。
あとは人の話をちゃんと聞けること。
広告代理店は自分のアイデアを披露する仕事だと思われがちですが、クライアントが何を求めているか理解できないと、どれだけ格好いい企画を作っても意味がないです。
■逆に「この子は厳しいな」と思う社員は?
言い訳が先に出る人ですかね。
できない理由を説明するのが上手くなっても、仕事は進まないので。
あと仕事を選びすぎる人。若いうちは面倒な仕事も含めてやった方が、後から役に立つと思います。
■投資用マンション3室、今後どうするんですか?残す?売る?
今のところ全部売るつもりはないですが実際売値がすごい上がってるんですよね(笑)
家賃収入もありますし、老後の収入の一つとして持っておいてもいいかなと思っています。
築年数や修繕費もありますから、ずっと持っていれば正解というものでもないので、条件が良ければ売る物件も出てくると思います。
■3室買ったのは、かなり儲かってるんですか?
「マンション3室持ってます」と言うとすごく儲かっているように聞こえますけどローンもありますから(笑)。
株で一発当てたみたいな話ではなくて会社員として安定した収入があったので、長期で資産を作っていこうと思って買っただけです。
■年収1,000万円を超えて一番「給料上がったな」と感じた瞬間ってありました?
あまりなかったですね。
税金も増えますし生活水準も少しずつ上がるので「急に金持ちになった」という感覚はなかったです。ローンの審査やカードなどで信用力を感じることはありました。
■じゃあ一番お金を使ったものは?
不動産を除けば、家族関連じゃないですかね。
子どもの教育費とか旅行とか。
自分自身は意外とものすごく高い時計を何本も買うようなタイプではなかったです。
■昔の広告代理店って、やっぱりめちゃくちゃ飲んでたんですか?
今よりは圧倒的に飲んでいました(笑)。
クライアントとも飲みますし、社内でも飲みますし。
今だったら問題になるような働き方や飲み方も普通にありました。
良い悪いは別として、飲みの席から仕事が生まれることも多かった時代です。
■広告代理店って昔は「花形」「モテる」みたいなイメージありましたけど、実際どうでした?合コンいっぱいしました?
ありましたね(笑)。
広告代理店と言うだけで今より多少ウケが良かった時代はあったと思います。
合コンも普通にやっていましたよ。仕事関係から人が集まることも多かったですし。
でも代理店に入っただけで全員モテるわけでは当然ないです(笑)。
■若い頃、経費でいい店にたくさん行けたんですか?
今よりはそういう機会は多かったと思います。
接待もありましたし広告業界自体がお金を使っていた時代でもありました。
「毎晩高級店で会社のお金を使って遊んでいた」みたいに思われるとちょっと違います(笑)。
■仕事で会った中で「この人はすごい」と思った経営者に共通するものは?
決断が早いことですね。
大企業の場合はどうしても社内調整がありますが、ベンチャーの経営者は「それ面白い、やろう」とその場で決まることがあります。
あとは自分が分からないことを「分からない」と言える人。
変に全部知っているふりをしない経営者の方が、結果的に周りに優秀な人が集まっていた気がします。
■もし今25歳だったら、もう一度広告代理店に入りますか?
入ると思います。
ですが今だったら昔のような総合広告代理店だけを見るのではなく、デジタル、SNS、AI、コンテンツなども含めて会社を選ぶと思います。
広告というより「企業の課題をどう解決するか」という仕事自体が好きなんでしょうね。
■AIが広告代理店の仕事をかなり奪うと思いますか?
作業は相当変わると思います。資料を作ったり、コピーの案を出したり、情報を整理したりする部分はAIでかなり早くなるでしょうね。
「この社長は何を本当に考えているのか」とか「誰と誰を会わせれば仕事になるか」といった部分は、人間がやる仕事として残ると思います。
むしろAIを使って作業を短くして、その分人と会う時間を増やした方がいいんじゃないですかね。
■40年近く働いて結局「仕事で一番大事だったこと」は何だと思います?
人でしょうね。広告の媒体も技術も全部変わりましたけど、人と人が仕事をすること自体は変わりませんでした。「あの人に相談しよう」と思ってもらえることが結局一番強かったと思います。
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